小羊学園の機関誌である「つのぶえ」に掲載したものを紹介します。
「利用者さんの持つ力」
昨年、ある外来の利用者さんの耳に褥瘡が出来ました。原因は、枕として使用しているアイスノンです。市販のアイスノンは、耳を除圧するスペースが無く圧がかかり、場合によっては褥瘡発生の原因になります。褥瘡を治すには、アイスノンの使用を控えるのが賢明ですが、体温調整が困難な利用者さんにとって生活上不可欠な道具の一つでした。そこで、除圧するスペース付きのアイスノンを作成することにしました。工夫して作成しましたが、手作りでは、市販されている製品と同等の効果や安全性が得られず、無いものを新しく作ることの難しさを感じました。上手くいかず悩んでいたところ、利用者さんの御家族がアイスノンの製造元へ作製の依頼をしてくれました。「この子はアイスノンが大好きで、これからも使い続けたい」と、御家族の子を想う強い気持ちを伝えたそうです。その想いが通じ、なんとかしてあげたいと思う方々が集まり、アイスノンを共同開発することになりました。作成前に、重症心身障害とは、褥瘡やその対策方法などの情報を提供しました。仮合わせの際は、遠方から出向き立ち会ってくれました。普段、重症心身障害児者に関わっていない方々が、重症心身障害や起きる問題に、熱心に向き合ってくれたことがとても嬉しかったです。共同開発から約半年後、ついに利用者さん専用のただ一つのアイスノンが完成しました。御家族も安心し満足そうでした。つばさ静岡に就職して5年が経ち、リハビリを通して多くの利用者さんと出会い、関わりを持たせてもらっています。利用者さんの多くは、重度の身体・知的障害を抱え、周囲の支援の上で日常生活が成り立っています。しかし、私は重い障害を抱えているからこそ、人を引き寄せ、動かす力があると感じます。今回のアイスノンの作成には、製造元の協力だけでなく、多くの方々の協力によって完遂しました。その協力があったのは、やはり利用者さんの人を動かす力があったからです。今回の件に関わった一人として利用者さんの持つ力を改めて感じ、そして心を動かされました。
|